稽古日記特別編~甲野善紀先生の中部・関西講座~(一日目:名古屋深夜研究会)


(続き)

(1つ前の日記:一日目名古屋講習会はこちら


○深夜の研究会

講習会の会場を出たのは21時を回っていた。
ここから山口先生の運転で米田柔整の柔道部による深夜の研究稽古会へ!
ここの監督の河原氏は、甲野先生のDVDでインタビューを受けている方で、稽古仲間のK磯さんと付き合いがある方。
柔道を専門にされている方達と甲野先生との稽古はどのようなものになるのか、非常に興味があった。

K磯さんから事前に「 河原にご指導お願いします。」などと言われていたが、
柔道家に指導などとはおそれ多いので一緒に研究させていただくつもりで臨む。

河原監督は甲野先生に「0時でも1時でもいいですから来て下さい。」というようなことを言っていたとのことで、今回の稽古にかける情熱が伺える。

山口先生の運転する車で向かうこと20~30分、 米田柔整の柔道場に到着。
河原監督が迎えてくれた。
この時点で時刻は22時あたりだっただろうか。

参加者は途中で増えたりして、5、6人。
深夜の柔道場で少人数での研究稽古、何とも言えない独特の雰囲気で始まる。

甲野先生の説明が始まる。
『膝が迎えに行く』
「二の腕を御輿を担ぐように持たせた状態から潰す」という動きや「入り身投げ」に入ろうとする動きで検証されていた。
甲野先生のやっていることとも説明とも違ってしまうが、見ていて感じたのは、つまり足が居着かないという事。

『両足に浮きをかける』
足払いに対して両足に浮きをかけることで払われる部分をなくして、避け続けるというもの。
ここでの浮きとは単なる膝抜きによる落下ではなく、胸などの上半身と釣り合いをとることにより、
その場に居続けられるような浮きをさす。

『太刀奪りの体捌き』
背負い投げや大外刈りを2割くらいかけられたところから、太刀奪りの体捌きでほんの数センチ動くと、
技をかける側にとっては思ってもみない力が急にかかって対応出来ずに崩されてしまうというもの。
これを甲野先生は「迷惑な荷物持ち」に例えて説明される。
重たい荷物を背負うところを、後ろから手伝いで持ち上げて貰ったは良いが、重たいからとパッと手を離された状態というもの。
この喩えは技の感触がよく言い表されているように思う。

『対ナイフ』
他の講習会でも説明されている。
・相手のナイフに対して脈部を晒さない事
・自分の手を差し出し、相手がそこに反応したところを自分の手をガイドにして相手のナイフを抑える

(メモより)「仕事は空中でしろ。」(『足払い』への対応に対して。甲野善紀)


○新技開発

河原監督の質問。
「先生なら大外刈りはどうやりますか?」
この質問から後に『大外掛け』と命名される技が誕生した。
・身体が捻れない
・肩があがらない
・足を踏ん張らない(甲野先生は当たり前すぎてことさら説明されない)
・相手に自分の動きを伝えない(これも説明されないが結果的にこうなっている)
この状態で『大外刈り』をかけようとしたときに出てきた形。
身体の向きは所謂『大外刈り』で捻ってしまう方向には決して捻らない。
右足股関節と膝を柔らかく使って相手の右膝裏に足の甲をつける。
そこから甲野先生の表現では「ぬるり」とか「ぬらっと」相手の右側に入り足をかける。
すると相手はほぼ真下に崩れる。

大柄な皆さんがぬるりを入られ、パタパタと崩される。
自護体と言われる形をとりながらも、足が居着いているとむしろ簡単に掛かってしまう。


「小内刈りは?」
この質問からは『高内刈り』と命名される技が誕生した。
これも見た目にはなぜ技がかかるのかがわからない。
『小内刈り』が足元を刈るのに対して、『高内刈り』は膝よりも上を刈る。
結果的には書いた通りだが、単に足を伸ばして同じ動きをしようとしても相手に跳ね返される。
かける側は片足立ちになったときにも足を踏ん張っていてはいけない。
こちらも受ける側が居着いていると簡単にかかってしまう。
逆に居着いていなければかからない。
先生に促され、居着かない状態で受けるとこの技にはかからない。しかし、『高内刈り』からの『隅落とし』にはあっさりかかってしまった。

○山口先生

『居着かない動き』
甲野先生が説明している横で山口先生に少し教わる。
「頚椎1番の位置で”びっくり”する。」
甲野先生のようにわかりにくい説明だ(笑)
この文章ではおそらく伝わらないのがもどかしいが、実際に動きを見せてもらうとそれが伝わってくる。
名古屋で山口先生の講座を受ける機会があれば是非体験していただきたい。
雰囲気だけなら私に会ったときに質問していただければ説明出来ると思います。
見た目にわかりやすいのは『落下』。
どんな姿勢からでも首が落ちるのと全身が落ちるのが同時。
自分にとって不利な姿勢からでも”びっくり”することで全身が瞬時にまとまって動くことが出来る。

『動ける状態にする』
「頚椎7番を意識して首を回すと身体が整う場所が見つかる。」
これはいわゆるストレッチ的に首を回すのではうまくいかない。
胸も一緒に整うように胸椎と頚椎の境目を意識してまわすのだと思われる。
実際にこの場所を意識して回してみると、スッと身体全体が整う場所が見つかる。
『斬り落とし』『浪之下』『柾目返し』『仰向けで肩を抑えられた状態からの崩し』様々な場面で同じように動ける状態に整えられれば、そこから動くことが出来る。

(メモより)「『失敗』ではなく『経験』」(山口潤)

『円の動き』
直線で動くよりも回って動いた方が速いかも知れない。
前に進む動きで弧を描くような動きで間を詰められると動きが追いにくく、速く感じる。

『受け』
甲野先生と山口先生の稽古。
甲野先生が手首を持ち、きめるところを山口先生が対応するという形。
山口先生の集中力がすごい。甲野先生の技がいっこうにかからない。
方向性のある集中という印象。相手の中心に向かう”集中力”といった感じか。
技がかかるかからないではなく、この濃密な稽古の現場にいれた事が私には何よりの稽古になった。

○アドバイス

『居着かない足』
「甲野先生との交流がきっかけで研究が進みましたか?」監督のK氏に質問したところ、
足払いが速くなったというので旧版と新版を見せていただく。
確かに速くなっている。足の自由度が増した効果と言えるだろう。
その上でまだ早くなる要素が見えたので、『居着かない足』の効果を体験していただく。
技をかけるときの状態で、自分がいつでも動ける足になっているかどうかということ。
私の伝えたい事は伝わっただろうか。

○終わり

深夜1時になっても参加メンバーの誰からも”それではこの辺で”という声がかからない。
甲野先生から”ではこの辺にしておきましょうか”という声がかかった。
甲野先生も体調が悪くなければ自分から言うことは無かったというほど、稽古に熱がはいった時間。
こういう空気は普段の講習会では味わえない。
連れてきていただいたことに感謝したい。

終わった後、部員の方から蹴らない動きや膝抜きの動きについて質問を受けた。
着替えるまでの短い時間、伝えられるだけ伝えさせていただく。
『蹴らない動き』
・膝を内にしめると蹴りやすい
・倒れる動きに逆らわずに進む
・(足下が気になるが)下を向かない
・頭が上下に揺れないように

『膝抜き』
これは「鏡写しの原理」を体感していただいた。
腕を掴んでもらい、まずはこちらが力んだ場所が伝わるということ。腕・肘・肩・背中・腰・足。
次にこちらが緩んだ事が伝わるということ。
そこで私が膝抜きをして、膝から崩れる感触を伝えた。
私が股関節・足首も抜いてしゃがむと、一緒に座れるというのも。

私自身、まだまだここで稽古していたい!という思いだったが、みなさまとはお別れ。
山口先生の運転でこの日の宿となるホテルへ。


○まだ終わらない

山口先生がホテルの部屋まで先生を送り届けるが、そこでまた稽古(!)
先ほど柔道場でやっていた稽古の続きである。
甲野先生があらたに”中心を行き続ける”と言われる動きで、先ほどまで受けきっていた山口先生を今度は押し込んでいく。
そんな稽古をまた目の前で見せていただき、最終的に稽古が終わったのは午前2時。

明日は大阪というのに何という稽古漬けの一日か。
私などはもう、刺激受けまくりである。

長いような短いような濃密な一日目はこれでおしまい。

(まだ続きますー)
次は2日目。大阪稽古会

コメント