松聲館の今を稽古する

内腕の動きに中丹田の感覚が出てきたという動きは、剣術にはっきりと現れていた。

袈裟に斬ったと思った剣が突きに変わっている様は、空中で急激に方向を変える蝙蝠のような動きだ。
蝙蝠は翼に骨が通っているが、甲野先生は胸に感覚的に備わった内腕を使って実現している。

「さすが秘伝に出ているだけありますね。」

わたしも秘伝も持ち上げられた(笑)この発言を引き出したのは、私なりの内腕の感覚で受けた動きだった。
前腕、上腕をリラックスさせて内観で作り出した内腕と手首を繋げておく。
この状態で柔道の釣り手を持たせた相手を下に潰すという、甲野先生の技を受けたところ、全く崩されなくなった。
このあと先生の変化に一度崩されたが、先生の感覚を貰って受け直したところ、また崩されなくなった。
その感覚は釣り手の手首に繋げる感覚を内腕だけでなく両足首も加えたもの。
先生からは「浮きがかかっている」と言われた。

このあとまた思い切り崩されることになるのだけれど、しばらくの間、アメリカで合気道をされていたAさんと稽古した。
お互いに動作術と合気道の稽古メニューを紹介しあいながら稽古したが、なかでも合気道の乱取り稽古が面白かった。
YouTubeの動画などでは『多人数取り』というタイトルで近い稽古を見たことがあったが、実際にやってみると難しく楽しい稽古だった。
相手との間合いを制した瞬間に自分がその場所からいなくなると、相手は自分がもといた場所に向かうが、単に逃げると追尾されて捕まってしまう。
合わせて基本的な捌き方も教わった。
これを多人数相手に連続で向かってくる状況で続ける稽古なのだという。Aさんの流派(会派?)では初段の審査でもやるらしい。
これが後の『太刀奪り』にも活かされてくる。
この稽古の感覚にしたがって、相手の間を取って太刀を避けると十分な余裕を持って距離を詰めることができるようになるのだ。

Aさんと稽古を続けていたら甲野先生が近づいてきて、前半に私が止めていた、釣り手を持たせる形での研究稽古が始まった。
内観で危機的状況を作り出してフロー状態になるというやり方をされると、さっきまで崩されなかった形で下まで潰されてしまうようになってしまった。
引きずり込まれるというより、吸い込まれるような、巻き込まれるような感覚で潰される。

これを中島先生の解釈と受けた感触をもとに稽古した。
内観を手がかりにするのは難しいので、甲野先生の見た目から主に体のどこを使っているのかを見極める必要がある。
それを試してみて、受け手が甲野先生の技の感触との違いを判定する。
構造動作的に言えば、広背筋が働く状態で動くということがキーになるようだった。




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