松聲館技法レポート『甲野先生の空気投げ(渦落)』

年内最後の撮影。

『追い越しする謙譲の美徳』による『払えない突き』が、何気なく、威力のある突きで、先生の拳に手のひらをつけた状態からはじめても払えずに後ろに飛ばされる。

持たせ技では、小さな影抜きを思わせる抜刀の動きによって、なんとも対応できない質の動きになる。腕から伝わるダミーの情報に騙されて本体の動きについていけない。
これは柔道的に組んだ状態でも同様に、『斬り落とし』でこちらが丈夫になる方向に重さをかけたまま、異なる方向にも体幹部の動きによって重さをかけると、はじめの重さに対する方向にだけ対応するようにこちらが居着かされて、次にくる重さの方向に耐えられない。

受けた動きを書いてはみたが、メルマガの動画でみていただくか、出来るなら講習会で技を受けてみていただきたい。

『内腕(ないわん)』と呼んでいる肩から胸鎖関節あたりの内観による腕のイメージがはっきり出てきたのは、剣を手を寄せて持つようになったことが影響していると言われていた。
腕を使いにくくしたことによって引き出された体幹部から操作する動きが、新たな腕の感覚を呼び起こしたということだろうか。
あえて不自由にすることで新たな動きが引き出されるというのは、稽古メニューを考えるうえでも面白そうだ。

わたしが甲野先生に柔道技を仕掛ける。
何を仕掛けるかは事前に予告しない。『小内刈』か『大外刈』『体落』を仕掛けることが多いが、この日も先生になにか仕掛けてきてくださいと言われて、『大外刈』を仕掛けたところ、崩しの段階で跳ね返されたというか、投げ返された。
先生は『浮いただけ』と言うが、こんな返され方は今までやられたことがない。
横で見ていた金山さんは、三船十段の動画で見たやり取りのようだったと感想を漏らしていた。


甲野先生はよく私を『空気投げ』で投げる。と言ってもその形は三船十段の隅落ではなく、その時々の甲野先生オリジナルの形だ。
この日も今まで先生に投げられたことのない形で『空気投げ』をされたが、その形が私の考案した『渦落(うずおとし)』と同じだった。
いつものように「たいさん、今のは空気投げだよね?」といたずらっぽく聞いてくる先生に、「はい。今のは私が研究している空気投げの形と同じで、『渦落(うずおとし)』と呼んでいるものです。」と答えると、「技の名前が先に決まっていたのは初めてだね。」と面白そうに技の名前を記録されていたのが印象的だった。

ここからは私が稽古した話。
形こそ私がやるのと同じ『渦落』だが、先生の技は質がずいぶんと違う。
わかっていて防げないほどに強力で速い。
松聲館技法研究員の金山さんにわたしの『渦落』を受けてもらって違いを確認すると、甲野先生の『渦落』は『謙譲の美徳』による威力を感じるが、私のにはそれがないという。
そこで金山さんに言われる通り、『謙譲の美徳』で相手を引き出しつつ、技をかけてみるとこれが見事に決まった。
さらに甲野先生からのアドバイスで、相手の前からいなくなるのを『太刀奪り』でやると、さらに鋭さが増した。
また、わたしの『渦落』は引き手側に落とすが、甲野先生は釣り手側に落とす。
これは甲野先生のやり方の方が相手の体幹部をより大きく崩すのに有効だと思われる。

以前から柔道に『謙譲の美徳』の前後方向を取り入れたいと考えていたが、使い処が明確になった。相性が良さそうなのは『小内刈』など相手にくっついてからかける足技だと思っていたが、まさか『空気投げ』の『渦落』だったとは。
この形でかける技は、ほとんど準備を必要としない。乱取りでも自然に出せそうなので今度の柔道練習が楽しみだ。

田島による『空気投げ(渦落)』の動画
『謙譲の美徳』を全く使っていない版です。
こうしてあらためて見返してみると改良の余地が見つかります。




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